993号
スーパーホテル〉偽装委託の「支配人」 労基署に申告し会見
全国130店舗以上を展開するビジネスホテルチェーンのスーパーホテルでは、店舗ごとの「支配人」は業務委託契約で働かせられている。
その実態は「労働者」で、業務委託契約は労働基準法の規制から免れるための脱法的なものでしかない。
4月10日、首都圏青年ユニオンは厚生労働省内で記者会見を行い、スーパーホテル上野入谷口店で支配人・副支配人として働く組合員らの働き方の実態は「労働者」であり、未払い残業代が発生しているとして上野労働基準監督署に申告を行ったことを発表した。
組合員らの働き方は1400ページものマニュアルにより業務内容が事細かに定められ、裁量は全くない。
業務委託料は月額100万円ほどだが、アルバイトの賃金も払わねばならず、手元に残るのは支配人・副支配人2人で20万円ほど。人員体制は十分でなく深夜の客室対応・トラブル対応などもあり、支配人・副支配人は事実上24時間業務に追われる。
組合員らは2018年9月から契約し、ホテルに住み込みで働いている。住民票はホテルの住所とする契約となっている。
休みたい時は本部の支配人代行派遣サービスを使わされ、1日3万円が委託料から差し引かれるため安易には休めない。
売り上げをいかにあげても報酬が上がるわけでもない。
組合員らの働き方は「労働者」であることから、未払い残業代はそれぞれ約1500万円にも上る。
「雇用によらない働き方」が政府によって推進されているが、実態は労働でありながら労働基準法や労働契約法を逃れるために業務委託契約を使う使用者が増えている。
青年ユニオンではスーパーホテルユニオンを設置し、違法な業務委託契約で苦しめられている全国の支配人が声を上げられるように取り組みを進めたい。
原田 仁希(首都圏青年ユニオン執行委員長)
傷病手当金〉被用者の判断「実態で」 23区に3団体が要望
4月23日、日本俳優連合、落語芸術協会、出版ネッツの3団体は東京23区の国民健康保険課宛に、傷病手当金支給についての要望&質問状を送った。
傷病手当金は、業務以外でのけがや病気で仕事を休んだ場合、日額の3分の2が支給される。
この制度は社会保険にはあるが、フリーランスや自営業者が加入する国民健康保険には設けられていない。
新型コロナウイルス感染症にはだれもが感染しうるにもかかわらず、加入する保険の違いで所得保障に差が生じる状況になっている。
3月24日、厚労省は新型コロナ感染症対策の一環として、「国民健康保険においても傷病手当金を支給するように」との通知を各自治体、国民健康保険組合宛に出した。
給付金の全額を国が負担する。朗報だが、課題もあった。
一つは、4月7日の時点で、この制度を設けたことをHPなどで周知している自治体はごくわずかだということ。
もう一つは、傷病手当金支給の対象者は「被用者等」となっていること。
フリーランスの働き方は多様であり、雇用に近い形で働いている人、発注企業に拘束されて働いている人も多い。
そこで、①傷病手当金支給の取り組み・周知をしているか、②窓口では「契約形式は雇用ではなくとも実態から判断する」対応をしてもらえるかを、東京23区に要望・質問した。
新型コロナ感染者が増え続けている現在、フリーランスへの健康や生活のリスク対策が少しでも整備されるよう働きかけていきたい。
杉村 和美(出版ネッツ)
国際自動車〉残業代「実質ゼロ」は無効 運転手ら最高裁で勝訴
3月30日、最高裁判所第一小法廷は国際自動車事件(第1次訴訟・第2次訴訟)につき、原審(東京高裁)の一審原告(=労働者)敗訴の判決を破棄し、東京高裁に差し戻す判決を出した。
一審原告勝訴である。
国際自動車では、実質的に残業代などの割増賃金を支払ってこなかった。すなわち、一応、残業代等を支払うのだが、歩合給の計算において、それと同額を差し引くので、賃金総額でみると歩合給が支払われていないことになるのである。
この賃金規則について、第1次訴訟においては一審、控訴審共に労働者が勝訴したが、最高裁で差し戻し判決を受け、東京高裁の差戻審では労働者が敗訴した。
きわめて形式的な判断をして、割増賃金が支払われていると判断したのである。
なお、2次訴訟は、一審、控訴審共に労働者が敗訴している。
最高裁は、差戻審のような形式論を取らずに、労基法37条の趣旨にもとづき実質的に判断をした。
すなわち、この賃金制度は、「当該揚高を得るに当たり生ずる割増賃金をその経費とみた上で、その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいもの」であるから、労基法37条の趣旨に沿わないと判断したのである。
労基法37条の趣旨とは、①「使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させる」ことと、②「労働者への補償」を行うことである。
割増賃金をタクシー乗務員自身に負担させる賃金規則が、労基法37条の趣旨に沿うわけがない。
もし、最高裁が差戻審のような形式的な判断をして、このような脱法行為を許容していたら、労基法37条は死文化していた。いや、労基法37条のみならず、日本の労働法制が無意味なものになり、憲法27条2項による労働者保護は空洞化したであろう。
本判決は、タクシーのみならず、トラック等の交通運輸関係の労働者にも活用できるものであり、また、使用者に労働時間法制を守らせる闘争の武器となるものである。
ぜひ、この判決を活用して、共に闘おう!
指宿 昭一(弁護士)
長崎バス〉不当労にストで対抗 激しい闘いつづく
長崎自動車株式会社が運営する「長崎バス」では、乗務員が1人1台「担当車両」を持つ。
同社では、戦後長らく、総評系と同盟系の組合が分裂していたが、一方の組合員が他の組合に異動しても担当車両が変わることはなかった。
2004年に両組合は統一しユニオンショップ協定も締結されたが、統一後のA組合の会社寄りの姿勢に反発する乗務員約60名が、2015年12月にA組合(約600名)を脱退し、「長崎バスユニオン」を結成した。
A組合脱退・ユニオン加入は相次ぎ、すぐに100名近くになったが、2016年3月、会社は、「組合を異動すれば担当車両を降ろす」という「裁定文」を発表した。
同年12月、ユニオンは、「裁定文」がA組合に有利な組合差別の不当労働行為であるとして、長崎県労委に救済を申し立てた。
しかし「裁定文」の運用は続き、会社は、乗務員がA組合から脱退すると、業務命令で担当車両から降ろし、担当車両なしの「フリー運転者」とし、もとの担当車両はA組合内で配分させた。
そのため現場では、複数のユニオン組合員がA組合員に対し、「どうして人の車両を取るのか」「なぜA組合で配分するのか」「お前たち許さん」などと発言した。
2017年10月、会社は、ユニオン組合員4名に対し、上記発言を「桐喝」であるとして、5~7日間の出勤停止処分と他営業所への配置転換を命じた。
同年12月、同4名は、出勤停止処分と配転命令の無効を長崎地裁に訴えた。
2019年10月31日、長崎県労委は「裁定文」の運用の停止を命じる救済命令を出し、会社は中労委に再審査を申し立てた。
さらに2020年3月27日、長崎地裁で、4名に対する出勤停止処分と配転命令を無効とする判決が言い渡された。
理由は、簡単に言うと、前例を逸脱した処分であるということである。
会社は控訴し、ユニオンは同年4月10日に全面スト。現在ユニオンは約140名に拡大しているものの、残業差別等、これ以外にも多数の不当労働行為を争っており、激しい闘いが今後も続く予定である。
中川 拓(弁護士)