アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
906号

★ギリシャ:シリザ政権の改革がスタート

 1月25日の総選挙で第1党となったシリザ(急進左派連合)は、右派の独立ギリシャ党との連立政権を確立した。
 右派政権との連立は、第1党が3日以内に連立政権を確立できなければ政権確立の権利が第2党に移るという制度、もう1つの左派政党である共産党がシリザとの連立を拒否していること、そして中道右派の新民主主義党との連立は新政権の政策に大きな制約を課すことから、「より小さな悪」の選択であった。独立ギリシャ党はトロイカと緊縮政策に反対するという点で一致しており、連立の唯一の条件が国防相のポストだった。


 シリザ政権の改革は、首相就任演説から始まった。チプラス首相は、聖書ではなく憲法の上に手を載せて宣誓を行った。シリザは選挙公約で、教会の経済的・政治的影響を排除すると明記している。
 就任後最初の行動は、反ファシズムの抵抗闘争に参加した共産主義者たちの記念碑を訪れることだった。新政権はまた、国会の正面の壁(デモ隊が入れないようにするために設けられていた)を撤去した。
 財務省による解雇に反対して19ヵ月間にわたって財務省前で座り込みを続けていた清掃労働者を再雇用した(この清掃労働者の闘いについては本誌14年7月17日号を参照)。


 チプラス首相はラディカルな弁護士のタシア・クリストドウロポウロウを移民相に任命した。彼は主流メディアからは「すべての移民を合法化しようとしている腰抜けの弁護士」と酷評されてきた。シリザ政権は、ギリシャで生まれたすべての移民の子どもの法的権利を認めた。これによって約20万人が教育や社会保障にアクセスできるようになり、強制送還の手続きが停止される(米国の左派系雑誌「ジャコバン」のウェブ版に掲載のカトリーナ・プリンシペさんの現地レポートより)。


 1月28日、チプラス首相は新政権の最初の閣議で、「1月25日の選挙でわれわれに信任を与えた有権者を失望させることはできない」と明言した。27日にはピレウス港の民営化(中国のCOSCOグループ等が入札していた)の中止、28日には電力公社(PPC)の株式の売却の停止を発表した。
 新政権はまた、不当に解雇された公務員の再雇用、低所得層への年金支給額の引き上げを検討している(ウェブ紙「ユーロアクティブ」、1月28日付)。


 環大西洋貿易投資協定(TTIP)の批准拒否を明言

 

  ゲオルギオス・カトロウグカロス行政改革副大臣(元欧州議会議員)は「シリザが多数を占めている議会はTTIPを批准することはない。これはギリシャの人々だけでなく、ヨーロッパの人々への大きな贈り物になるだろう」と述べた(同紙2月2日付)。
 同副大臣は特に、TTIPに含まれる企業・国家間紛争解決(ISDS)条項や、GMOへの規制、国民医療制度をめぐる問題でTTIPがヨーロッパの利益に反していることを強調している。
 TPIPの批准にはEU評議会の全会一致の賛成と全加盟国における批准の2つの大きなハードルがあり、ギリシャには拒否権を行使する機会が2回ある。

 

 

 

★中国:年金改革めぐり8千人の教員が3日間のスト

 黒龍江省南西部のチャオトン市で昨年11月に、約8千人の教員が試験的年金制度に反対して3日間のスト(自宅待機)を行った。
 教員たちは、支給額の減額につながる新しい制度への加入強制は違法であると主張し、市当局に保険料の返還を求めている。


 チャオトン市における紛争は、中国の年金制度をめぐる全国的な論争の一面を象徴している。アナリストによると、チャオトン市の実験は、教員と公務員の間の年金保険料と年金支給額のギャップの拡大をもたらしたために失敗した。
 同様のギャップは、公平な年金制度をめぐって全国で起こっている論争の中心的な問題である。中国では2億2600万人が年金の受給資格を持っており、8億3700万人が年金基金に保険料を納付している。批判者たちは、この制度が公務員や一部の公有部門の労働者に特権を与えていると指摘する。以前にこの制度の改革が試みられたが、失敗している。
 民間企業の労働者や、他の区分の労働者(チャオトン市の教員など)たちは年金格差に怒っており、不公平な年金制度をめぐる軋轢(あつれき)が年金改革の遅れの原因であるとされている。


 中央政府は再びこの問題を取り上げ、国務院は昨年12月に、公共部門と民間部門の両方を対象とする統一的な年金制度の確立に向けた計画を発表した。
 全人代常務委員会は同23日に、都市および農村の年金制度の簡素化について論議した。
 馬凱(ばがい)副首相は、人力資源社会保障省がすでに統一的な年金制度のための計画を立案し、国務院および共産党政治局常務委員会で承認されていると述べた。計画の内容および実施の時期の詳細は不明だが、中国政法大学法経センターのフ・ジエ教授は、この計画がすべての労働者を公平に扱うことを提唱していると述べている。
 人力資源省のフ・シャオイ副大臣は、新しい計画が「年金制度の格差を徐々に解消するための方向を定め、動きを始めるだろう」と述べている。


 以前の計画経済下では、都市の労働者は公共部門も民間部門も単一の年金制度に加入し、保険料を支払っていた。しかし、公務員の場合、保険料は国家が拠出していた。他の労働者の保険料は賃金から差し引かれていた。
 80年代以降、経済の転換の中で国有企業におけるレイオフや企業の閉鎖、民間企業の増大が進み、90年代に民間企業の労働者を対象とする年金制度が導入された。この制度の下で、労働者は賃金の28%を年金基金に拠出している。


 一方、公務員や医師、教員などの公共部門労働者は年金基金に拠出することなく、退職後は年金を受け取ることができる。また農村の退職者や都市の失業者は別の制度で扱われている。さらに学者たちの間では、年金基金の確保のために定年引上げ(男性は60歳から65歳へ、女性は50歳から60歳へ)を提唱する動きがあり、それに対する反発が高まっている。  (「財新オンライン」1月12日付けより)

 

 

 

 

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