★米国:フリーシフトを規制させる小売店労働者の闘い
米国の小売チェーンでは、飢餓賃金の問題(多くの労働者家族がフードスタンプなどの公的な援助を必要としている)だけでなく、経営者の都合に合わせて編成される不規則な労働時間(日本ではフリーシフトとも呼ばれる)が大きな社会問題となっている。
11月25日にサンフランシスコ市の行政執行官会議は、「小売店労働者の権利法」を採択した(11人全員が賛成)。
この法律は小売チェーンの経営者に対して勤務時間を変更する場合に2週間以上前に通知することを義務付けている。これは20店舗以上を経営し、同市で20人以上を雇用する小売りチェーンを対象とし、清掃や警備の職種にも適用される。違反した場合には賃金のほかに反則金を支払わなければならない。
米国の労働者の59%が賃金を時給ベースで支払われており、700万人以上の労働者がパートタイムで働いている。最近のシカゴ大学の調査では、パートタイム労働者の47%が、就労時間の変更の通知について1週間前またはそれより短い予告期間で知らされている。これは働きながら職業学校に通っている人や、仕事を掛け持ちしている人、あるいは子どもや高齢者の世話をしなければならない人たちにとって大きなストレスになっている。(ウェブ紙「POLITICO Pro」11月25日付より)
以下は、「レイバーノーツ」誌共同編集人のジェニー・ブラウンさんによるレポート(同誌ウェブ版10月29日付)の抄訳である。
「自分の勤務時間がたった2日前に知らされるというような生活を想像してみてほしい」とシャルレーン・サントスさんは言う。彼女はニューヨークにあるZARA(スペイン資本のファッション・ブランド)の店で働いている。彼女は7月末に仲間と共に、42番街にあるZARAのフラグシップ店の前で集会を開いた。
サントスさんは小売・卸売・デパート労働組合(RWDSU)が組織している「小売アクション・プロジェクト」(RAP)のメンバーである。RAPは「公正な労働時間」を掲げて5年前から活動しているが、異常な労働時間への関心が全国的に高まったのは最近のことである。
サンディエゴのスターバックスのバリスタが細切れの労働時間の合間に小さな男の子を育てている様子を8月に「ニューヨークタイムズ」が取り上げた。多くの読者から、自分も同じ経験をしているという投書が殺到。スターバックスはその後、労働時間について従来のやり方を見直すと約束した。
ニュージャージーでダンキン・ドーナツの3つの店舗のパートタイムを掛け持ちしていたマリア・フェルナンデスさん(32歳)が、勤務の間の空き時間に車の中で仮眠していて、ガス中毒で死亡したというニュースは大手メディアでも大きく取り上げられた。
小売店で働く大部分の労働者が、自分にも関係する問題だと感じた。ファストフード店やウォルマートの労働者のストライキでも「規則的な労働時間と、十分な労働時間」が最重要の要求として掲げられている。「公正な労働時間を求める運動は新たな全国的な運動となってきた」とサンフランシスコのJwJ(「公正な雇用を」)運動活動家のゴードン・マーさんは言う。JwJはサンフランシスコ市で「小売店労働者の権利法」の制定を求める運動を進めてきた。
*ウォルマートの方式
問題になっている「ジャストインタイム」方式の労働時間は、ウォルマートが開発し、今では大部分の小売チェーンやファストフード店で導入されている。
コンピューターを使って過去のパターンや天候、予想される宅配注文などのデータから常に最適の人員を計算し、それに基づいて勤務時間を指示する方式である。労働者はコンピューター・プログラムに命じられるままに出勤する。短時間のシフトや、全く仕事がない日があり、突然出勤を命じられる日もある。
賃金も激しく変動する。ZARAで働くアイリス・ベラスケスさんは、母親と妹を扶養している。彼女の勤務は週3日に減らされ、通常は1日6〜7時間、時給は10.50ドルである。
ニューヨークで8月に従業員数100人以上の小売店で働く200人の労働者に対して行われた調査では、週の最低労働時間が決められていると答えた労働者はわずか40%だった。労働者の3分の1は、呼び出しがあった時に出勤するという契約である。その時間に仕事があるかどうかは、2時間前にならないとわからない。保育やそのほかの必要な日課のスケジュールが立てられず、社会的な活動や家族との関係も制約される。
短時間労働によって経営者は社会保険のための拠出も回避できる。医療保険制度改革法(いわゆる「オバマケア」)は、パートタイム労働者(週労働時間が30時間未満)の医療保険への加入を義務付けていない。ウォルマートは10月7日に、就労時間が30時間未満の労働者に対する医療保険の拠出を中止すると発表した(もともと加入していない労働者が大部分なので、実際に影響を受けるのは3万人程度)。
ニューヨークでは州の法律によって、大部分の経営者は、1つのシフトに対して最低4時間の賃金を支払うことを義務付けられており、細切れシフトは規制されている。他の9つの州では1回の出勤での最低賃金が定められており、労働者が出勤した日には仕事がなくても一定の賃金を支払わなければならない。連邦法にはこの種の規定はない。
サンフランシスコ市の「最低賃金15ドル」の運動の中で、多くの労働者は15ドルでも生活の安定には不十分であり、フルタイムの仕事と安定した労働時間が必要であると訴えていた。
「小売店労働者の権利法」では、小売店チェーン、レストラン、ホテル、携帯電話店、銀行は新規の人員募集を行う前に、現在のパートタイム労働者にフルタイム雇用を提供することを義務付けられる。
*労働組合の組織化の成果
小売店チェーンでの労働組合の組織化は非常に困難だが、いくつかの成功例がある。
RWDSUは07〜11年にかけてニューヨークのH&M(世界第2の衣料品小売企業)の数十の店舗で組合を結成し、現在ではこの地区の1500人の労働者を組織している。交通労組第100支部は、ニューヨークの通勤用自転車レンタル店(330店舗を経営)の250人の労働者を組織した。
全米食品商業労働組合(UFCW)の支援の下で「われわれのウォルマート」は「ブラック・フライデー」の一斉行動を含めて数度にわたる1日ストを成功させてきた。(今年も11月28日の「ブラック・フライデー」に向けて各地で連帯の行動が行われている)
★パレスチナ:東エルサレム―パレスチナ人を追い出す『開発』
イスラエル占領下の東エルサレムで、不法な入植地拡大や極右シオニスト・グループによる一連の挑発的行動を契機にアラブ系住民と治安部隊との衝突が繰り返され、緊張が高まっている。
以下は米国「ザ・ネーション」誌11月4日付に掲載されたレポートの抄訳である。
この間の暴力の頻発の背景には、何世代にもわたって蓄積されてきた危機がある。アラブ系住民が多数を占める東エルサレムは、他の地区からは隔離され、貧困と社会不安が持続してきた。
独立的な労働者支援グループWAC・MAAN(ワーカーズ・アドバイス・センター)は東エルサレムの現状についての新しいレポートを刊行した。
このレポートによると、東エルサレムは社会経済的に破滅的状態にあり、イスラエルの2つの社会福祉機関、NII(国家保険機構)とEB(雇用局)は慢性的貧困の状態を放置しているだけでなく、促進している。これらの機関はエルサレムのすべての住民に公共的支援を提供することを任務としているが、WACによると、パレスチナ人の居住地域に対しては「パレスチナ人を追い出し、東エルサレムへの支配を強化するという政府の政策」の下で、パレスチナ人を社会的諸権利から締め出す「門番」として行動している。
東エルサレムの開発という計画の本当の狙いは、社会的サービスを拡充することではなく、ズタズタに分断されたパレスチナ人居住地区を徹底的に貧窮化し、究極的には浄化し、ユダヤ系住民による取得を促進することである。……
失業は常態化しており、11年にはパレスチナ人の就業率は37%である(男性が60%、女性が14%)。
最近における抵抗闘争が始まって以降、地域全体が不安定な状況になっている。アラブ系住民はいたるところで治安部隊の密集した隊列と遭遇する。多くの経営者はアラブ人の雇用を控えるようになっている。
開発地域においては建設工事に対する監視が一切行われないため、投機的な開発業者が高層住宅を、何の監視もなく、必要なインフラもなしに建設しており、将来、火災や地震による災害が懸念される。
東エルサレムにおけるパレスチナ人への迫害は、ガザや西岸地区をめぐる動きとも連動しており、最近における「開発」の推進はパレスチナ人の大量の追い出しを伴う危険がある。市は最近、エルサレムの統一によって国家の安全を強化するための5ヵ年改革を発表した。
「ハーレツ」紙は、この計画がアラブ人居住地域の併合を促進し、将来においても市の分割を不可能にすることを意図していると推測している。