連載 沖縄
779号

「押しつけられた常識」を覆せ 基地 沖縄集中の神話

政府への疑念あるが

 本稿が出るころには11月8日の県民大会とともに、その後の日米政府の対応、オバマ大統領・鳩山由紀夫首相との会談結果なども世に知られているだろう。
 県民大会前の11月3日、琉球新報社と毎日新聞社による米軍・安全保障問題に関する県民世論調査(10月31日、11月1日実施)で、普天間飛行場の「県外・国外移設」を鳩山内閣に求める人が69・7%、日米合意の「辺野古への移設計画」反対が60・0%であることが分かった。「嘉手納統合」反対も71・8%に及ぶ。「辺野古…」賛成19・6%、「嘉手納…」賛成14・8%だ。
 全国にも報道済みなので詳細は省くが、鳩山内閣支持率62・9%(不支持16・1%)、全国平均(61・8%)を上回る支持、また仲井真弘多知事の支持率39・9%(不支持36・6%)をも大きく上回ることとともに銘記しておきたい。
 県民大会の決議案やスローガンが決まった11月3日、岡田克也外相が6日にクリントン国務長官と会談するべく予定していた訪米の中止が発表された。一方、仲井真知事は、4日渡米した。「県外移設がベストだが、実現可能なベターの県内移設」と言い続けてきた仲井真知事だが、8日の県民大会を欠席しての訪米である。神奈川県の松沢成文知事が会長、仲井真知事が副会長の渉外知事会として日米地位協定の抜本的な見直しを、米新政権に働きかけるのが目的だ。それにしても、県民の総意を内外に示そうというときに不在で、メッセージも寄せなかった。
 今年1月にも訪米、日米地位協定の改訂を訴え、辺野古の基地建設についてはふれないはずだったが、「聞かれたので」V字滑走路の沖合移動の要求について述べたという。今回もそうなっては、誤ったメッセージを送ることになり、「帰るところがなくなる」よ(琉球新報11月1日社説)というのが県民の心だ。
 政府の「普天間」に対する不統一、閣僚の日替わりメニューのような発言は県民をうんざりさせ、絶望もさせた。とりわけ岡田外相の、居丈高、傲慢無礼、内政干渉というべきゲーツ国防長官らの圧力に屈したとしか思えない豹変ぶり。これまで何度となく問題になり否定された嘉手納統合案には、地元嘉手納町、沖縄市、北谷町はただあきれるしかない。同3市町では議会が抗議と反対の意見書を超党派で決議し、嘉手納町では11月7日反対町民大会が開かれた。

なぜ沖縄なのですか

 政府は普天間が辺野古の新建設基地に移されることとする日米合意が行われるまでの経過を検証するとして、防衛省が井上源三地方協力局長に10月17、18の2日間、伊江島補助飛行場、嘉手納弾薬庫地区、勝連半島沖、宮古・下地島の民間航空会社パイロットの離着陸訓練飛行場の4ヵ所と、過去に候補に上がった地域を視察させた。
 沖縄側も、1995年の少女暴行事件にさかのぼって、現在のV字滑走路案に至る普天間の問題を検証している。メディアも、市民運動も、ここ4年米軍再編成の「まやかし」をついてきた国際政治研究者グループ、生物多様性の尊重を掲げた自然環境保護運動などがこぞって、辺野古に基地を建設する根拠への疑問はじめ、不当性、不合理性などを追究してきた。
 最も根源的な問いかけは、基地は本当に「沖縄でなければならないか」ということだ。日米政府も、全国的なメデイアも、メディアに影響された国民も、沖縄の県民さえ、「地政学的に」必要、つまり、沖縄の地理的条件が日米の安全保障上欠くべからざるものだから―と考えている。運命のようなものと思われて常識化している。その上に、基地の存在が及ぼす経済効果が絶大で、それがなくては沖縄は生きていけないという暴論も常識化してまかりとおる。
 それは「押しつけられた常識」だ、「地政学的」というのはウソだ。沖縄に基地が集中するのは地政学的な必要性からではなく、あくまでの日米政府の判断によるものだ―。沖縄に海兵隊が駐留する必要性などない。米中関係は良好で中国脅威論など、もはやありえないし、テロに対する戦争では海兵隊の抑止力など通用しない―。普天間飛行場はどこへ移転しても構わない程度のもの―。辺野古に基地を建設して移すのは、思いやり予算で沖縄に基地を置くことが安上がりで、兵士も住みやすいからにすぎない。移設先の名護市などアメとムチで懐柔されているし―。
 宮里政玄沖縄対外問題研究会代表ら研究者や、地元記者の立場で米軍や日米政府を取材している記者が発する「押しつけられた常識」を覆す論説は沖縄から基地をなくせ、普天間飛行場閉鎖を主張する論拠として広がってきている。しかし、本土側、また長い自民党政府の策略にならされて開発・公共工事依存にむしばまれた一部地域リーダーになかなか届かないのも事実。
 最近『砂上の同盟―米軍再編が明かすウソ―』を刊行した沖縄タイムスの屋良朝博軍事記者・論説委員は、一例として、沖縄の海兵隊兵力8千人の移転をめぐって書く。
 「(中央)マスコミは〈沖縄の負担軽減のため〉という政府説明を信じるだけで、海兵隊削減を可能にした戦略の変化や軍事的合理性について説明してくれない」。「ホリエモンの会社乗っ取り騒動のときには、ふだん使わない株式の専門用語を駆使して読者の知的好奇心を満たしてくれた。年金問題も、コンマ以下の特殊出生率を引き出して、将来の見通しを占ってくれる。ところが、海兵隊のグアム移転は、なぜ、どうして、どのように、という基本的な情報がきっちり報じられていない」
 沖縄になぜ基地が集中しなければならないのかが、さっぱり解明されないまま、普天間を「県内移設」しなければ、日米同盟が危機に瀕する―と安易に言い立てる。
 これまで、いくども8万、10余万と結集してきたのと同様。11・8県民大会は、そのような不満を県民共有して、異議を申し立てる機会であった。
 「押しつけられた常識を覆す」研究者、ジャーナリストらは、県民大会の翌11月9日、オバマ大統領宛、「沖縄県民の声」と題し、米軍再編に反対し米海兵隊の沖縄からの全面撤退を検討するよう求める声明を発表、大使館に郵送した。

 

泡瀬干潟埋立て多数民意ではない

 泡瀬干潟問題では、沖縄市自身による市民の「2009年3月 生活環境 意識調査 報告書」が、干潟を埋め立てる「東部海浜開発事業」に市民の支持がきわめて低いことを明らかにした(10月29日沖縄タイムス、11月2日琉球新報)。
 沖縄市が5年に1度実施する、市の施策25(98年開始当初は23)の中から優先すべき事業3つを上げる調査。08年度(同年11月〜09年1月実施)は同事業を支持する意見11・8%で、全体の9位。トップ「保健医療の充実」31・4%以下、「商店街の活性化」28・8%「年金対策の充実、」24・2のベストスリーに比べ、いかにも少ない。98年には5.8%で下から5位。海浜公園にホテル建設とばら色の夢を語って見せた03年に13・3%まで上昇したが、また下落。最初から市が説明しているような市民の期待を背負った計画ではないことがあらわだ。
 沖縄市民は、より強く商店街の活性化、下位ながら「市街地の再開発」(98年10・3%、03年8.5%、08年8.3%)を求めているのだ。裁判所も指摘する、採算の見通しもない事業を夢見る埋め立ての前に、空洞化一方の市街地の再生が急務であることを示してもいる。麻薬のように次から次へと公共事業に依存する土木業者優先の壮大な税金の無駄づかい、自然の破壊で、将来に禍根をのこす、性格は違え、辺野古の基地建設も同じ構図であろう。

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